臨床試験における多様性の欠如について考える


臨床コンテンツ(C3)サミットの会合レポート:臨床試験における多様性
本記事は、TransPerfect Life Sciences主催のC3 Summitに関する二部構成のレポートの前編です
TransPerfect Life Sciencesは、プリンストン(米国ニュージャージー州)、ローリー(同ノースカロライナ州)、ロンドン(英国)で2022年C3 Summitを開催しました。このイベントでは、さまざまな専門家が臨床に関して議論を交わし、それぞれの知見を提示しました。ライフサイエンス業界に関わる幅広いテーマのなかでも今回中心となったのは、臨床研究における多様性と分散型臨床試験(DCT)の2つです。
ロンドンでは、臨床分野の専門家を招き、臨床試験の現状と、研究に関わる患者の多様性を促進するために製薬企業はどのようにプロセスを改善できるかについてセッションが開かれました。本記事では、臨床分野の現状を掘り下げ、改善に向けてどのような取り組みが必要か、セッションで議論された内容をご紹介します。また、本記事は二部構成となっており、DCTに焦点を当てた後編も公開予定ですのでそちらもご覧ください。
臨床試験における多様性の欠如
治験における多様性の現状として、マイノリティの人々の割合が低いことが判明しています。米国では、アフリカ系アメリカ人は臨床試験参加者の5%しか占めておらず、ラテン系アメリカ人はわずか1%です。英国では、臨床研究に参加するマイノリティの割合は5%に落ち込んでいます。さらに、世界的にみると、心血管疾患、肝炎、HIVを含む多くの治療分野で女性の割合が低いという調査結果もあります。
こうした数値には、変化する世界人口や疾病の様相が反映されていません。
2045年までに米国人口の過半数をマイノリティが占め、21世紀末までに世界人口の8割をアフリカとインドの人が占めることが予測されています。また、疾病の状況も進化していくでしょう。例えば、2030年までに低所得国における新規のがん患者数は8割以上増加すると予測されています。
臨床研究における患者の多様性の欠如は、疾病のパターン、臨床症状、治療反応を正確に把握する上での課題を生み、マイノリティの人々に対する健康転帰の格差を引き起こします。例えば、現在の子宮頸がんの5年生存率は白人女性で69%ですが、黒人女性では56%に下がります。
エンゲージメントと多様性を促進するには、患者の意見の尊重が不可欠
従来の治験デザインは、厳格なプロトコル、スケジュール、臨床環境によって決められ、患者の意見を取り入れる余地は限られていました。治験における自分の役割を患者がどう認識しているのかについて理解するために患者と接すると、治験デザインが複雑で、明確なコミュニケーションが不十分なことが多いため、全体を通して患者のエンゲージメントが少ないことがわかります。また、治験実施計画書の理解不足、多言語リソースの不足、治験基準の柔軟性が制限されていることが相まって、経済的なサポートの利用に関する懸念も高まっています。
患者は、家庭、学校、仕事などの事情で通院に必要な時間の調整がつかないなどといった、治験参加に対するさまざまな困難を訴えています。そして、限られた理解や意見で指示に従うことを求められるため、統計値のように扱われていると感じるという声もあります。その他の懸念事項としては、臨床試験参加への不安や、参加中に何を求められるのかよくわかっていないことなどが挙げられます。
参加に対する障壁を改善の機会につなげる
治験デザインに患者の意見を織り込むことで、患者を中心に据えて優先することができ、より緊密なコミュニケーションと確かな結果が得られるようになります。そのためには、次に挙げるような改善が必要です。
- 明確で分かりやすい言葉を使った、患者とのより緊密かつ継続的なコミュニケーション
- 家庭、仕事、学校、介護といった個人の事情に配慮し、さまざまなスケジュールに合わせた治験の通院計画など、柔軟な治験基準をデザインする
- 臨床試験への参加で求められること、予定されている治験へのアクセス方法、実施される研究に伴う利益について、メディアの認知度を高める
- 社会経済的地位、人種、民族、宗教が及ぼす患者プロセスへの影響など、患者が直面する臨床試験への不信感や参加の障壁について、臨床試験スタッフを教育する
- 調査によると、患者にとって自分と共通点のあるスタッフは信頼しやすく、接しやすい傾向があることから、臨床試験デザインだけでなく人材においても多様性を確保する。
最後に
臨床研究への参加者と世界人口の現状を一致させるためには、患者との関わりを深めるための新しい仕組みが必要です。マイノリティの人々にとって、臨床研究に関する認識不足、搾取や抑圧、危害への恐怖、宗教的・文化的相違などが主な障壁になっています。そうした障壁を取り除くために、臨床研究者は、患者との信頼関係の再構築を最優先に考えて、治験参加のメリットを説明し、力関係を変えていく必要があります。
最終的には、エンゲージメント/求人の段階から最後まで、治験プロセス全体を通して継続的かつ透明性のあるコミュニケーションで患者の権利を向上させることが不可欠です。
臨床試験における患者のエンゲージメントと多様性の促進について詳細な情報をご希望でしたら、ぜひトランスパーフェクトにお問い合わせください。貴社の研究参加者をサポートし、向上させるサービスをご案内いたします。
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