声優のキャスティング: 不確定要素を避けるための6つのポイント
私は長年、『ルーニー・テューンズ』や『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』のキャラクターなどに、たくさんの素晴らしい声優をキャスティングしてきました。また、オリジナルの印象的な声を可能な限りオリジナルに近い形で再現できるよう、世界中の声優ために方法論を定義しました。しかし、実写映画・ドラマはまったく異なるものです。
国際的なIPとなった誰もが知る象徴的なアニメキャラクターとは異なり、実写映画・ドラマでは世界的な声の一貫性は重要な要件ではありません。有名な映画俳優でも、吹き替え版を作る国が違えば、聞こえ方も異なります。では、声のマッチングが重要でなければ、課題はどこにあるのでしょうか?それはあらゆる要素にあります。演技、レコーディングのスピード、スケジュール調整、ロケーション、指示の受け方などです。
実写映像の吹き替え版キャスティングで課題となるのは、主に次のような点があります。
定番の声
フランス、イタリア、ドイツ、スペイン、メキシコ、ブラジル、日本、韓国など、吹き替えが一般的である国では、映画のメイン人物(大抵はアメリカ人)には「定番の声」があります。つまり、どの作品でもその人物は同じ声優が担当しているのです。
これは契約上の問題ではなく、単なる文化的な側面です。常に同じ声優が同じ声を担当するのは論理的で良いことですが、一人の声優が何人もの映画俳優の声として使われると、状況が難しくなります。この場合、吹き替え版の監督は、有名俳優の吹き替えに別の声優を採用することはできるのでしょうか?答えはイエスでもあり、ノーでもあります。たとえ勇気を出して別の声優を選んだとしても、SNSから批判を浴びる可能性もありますし、コスト面も考慮する必要があります。
「時は金なり」は万国共通の法則です。声優がそのパーソナリティの声として確立するのは、オリジナルと同じような声だからではなく、吹き替えるのがとても上手だからであり、そして一番重要なのは早く吹き替えができるからです。そのため、数少ない優れた声優がほとんどの映画の吹き替えを担当し、その結果、多くの映画スターが国際的な映画やテレビシリーズで同じような声を出しているように感じるのです。また、吹き替え版の監督は、声優の居住地も考慮しなければなりません。定番の声の声優が他のキャストと違う都市にいる場合、レコーディングは別々のスタジオで行わなければなりません。エンジニアは、同じようなセットアップを用意して、レコーディングの声が同じ音質、同じ声色になるようベストを尽くしますが、それは決して簡単なことではありません。
アメリカの吹き替え版
アメリカはまだ吹き替えが一般的な国ではないため、アメリカの視聴者に対して同じアプローチはしません。『スペース・ジャム』と『ルーニー・テューンズ:バック・イン・アクション』の吹き替えを全世界向けに対応した際、私が一番こだわったのは、以前に『ルーニー・テューンズ』のテレビシリーズで起用した声優と同じ声優を起用することでした。オリジナルのアメリカ人声優の声は年々変化していますが、気にかける人は誰もいません。こういったアメリカにおける声優との関係性の違いは、簡単に説明することができます。
現在までアメリカ向け外国映画は、配給会社が常に字幕版を好んでいたため、アメリカでは実質的に吹き替え版が制作されることはありませんでした。そして、配給会社が特に気に入った映画があれば、同じシナリオでまったく新しいアメリカ版を製作していたのです。フランスで大ヒットした『赤ちゃんに乾杯!(3 hommes et un couffin)』は『スリーメン&ベビー』としてリメイクされ、『Mr.レディMr.マダム(La cage aux folles)』は『バードケージ』としてリメイクされました。イタリア映画の『女の香り(Profumo di donna)』は『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』としてリメイクされました。他にもたくさんあります。
しかし、状況は変わりつつあります。ストリーミングプラットフォームで、英語を含む数カ国語のコンテンツを配信するようになったおかげで、海外の映画やテレビシリーズの吹き替え版を目にするようになりました。以前は、たくさんのオーディオトラックをDVDに保存するのが大変だったかもしれません。しかし今ではそのような問題もなくなりました。コンテンツは巨大なサーバー、もしくは必要に応じてクラウドに保存することができるのです。
声優のスケジュール調整
映画の吹き替えは1回きりの収録で、通常1~2週間で終了しますが、テレビシリーズの吹き替えはもっと複雑です。もしそのシリーズが現在放送中である場合、つまりエピソードが毎週リリースされる場合は、監督はその放送が終了するまで声優が毎週出演できるよう、確認しなければなりません。スケジュールが非常にタイトなため、監督は仮の映像で収録を始めることが多く、声優は制作中に追加や変更となったセリフの不足分を収録するため、再度スタジオに戻ってくる必要があります。このようなことがほぼすべてのエピソードで発生しているため、声優はうまくスケジュールを調整する必要があり、現在放送中のテレビシーズンの吹き替えにかかるコストが高いのはそのためです。
今ではプラットフォームで完全版のシリーズが一度に提供されるようになったため、吹き替えの観点では非常に楽になりました。声優は一度に3~4エピソードを収録するスケジュールを組むことができ、それによってコストを下げることができます。また、プラットフォームの普及でテレビシリーズの新しい楽しみ方「イッキ見」も広がりましたが、これはまた別の話です。
知名度や声の魅力を優先するか、仕事のやりやすい人が良いか
新しいテレビシリーズの声優をキャスティングする際、監督は重要な選択を迫られます。役柄に最も適した俳優を選ぶか、シリーズ全体を通してスケジュールに余裕があり、仕事がしやすい俳優を選ぶか。私は何度かこのような局面に立たされたことがありますが、多くの場合、収録は疲れること、難しいこと、声優の性格によっては収録にストレスが生じるのは事前にわかっています。最適な選択ではないにしろ、毎週現場に来て、収録中に問題が発生しないような人を選ぶのは自然な選択です。監督にとって一番避けたいのは、あるシーズンから次のシーズン、ひどい場合には同じシーズン内で、声優を変えなければならないことです。
声優をシリーズの途中で変更する場合
声優を変えなければならない場合は、「そっくりな声の持ち主」を探すようにします。問題は、以前の声優の声にかなり近い声を持つ別の声優を見つけることです。声の認識は、声そのものだけではなく、話し方、声の出し方、アクセントの付け方など、微細な点で2人の声優が同じように聞こえるか聞こえないかを左右するため、探すのは簡単ではありません。さらに、代役となる「そっくりな声の持ち主」は前の声優の話し方やイントネーションを習得しなければならず、収録の難易度がさらに上がります。
不確定要素
確かにキャスティングは吹き替えプロセスの中で最も秘密主義的であり、予測できない部分です。ボイスディレクターが直面するであろうすべての課題を踏まえると、キャスティングプロセスはそう単純には見えません。「キャスティングは声を承認するだけではない」と言われますが、実際、それ以上のものなのです。
エキスパートに聞いてみよう
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